ジェイムズ・ブリッシュは、晩年にこんなことを語っていた。
小説にリアルな数値や数式、理論を持ち込み、それとの整合性を
考えるのは難しい。しかし、そこを避けずに敢えて挑戦し、完成させるのが私たちの仕事の意義だと。
そして、また“~~でしか、~~だけ”という風に物事の1面だけを描きたくない。どちらかというならば、良い方に導く何かを考えたいし書きたいのだと。
なるほど、彼は自身のバックグラウンドである製薬会社勤めの経験をも取り入れて、またその実際的な計算式を含めて本作を完成させている。そして、ネガティブなイメージを描出しつつも、その中でポジティブな可能性を垣間見る人間たちを登場させる。
ブリッシュは、かなり信頼のおける批評家としても知られ、辣腕を振るったらしいし、著作や発言の多くも、小説に理性や合理性を求める人間であったようだ。しかし、彼の小説を読んでみるとハードSFの皮こそ被っているのだが、登場人物たちは皆個性豊かであるし、非常にエモーショナルな生き方をしている。そして、また物語の展開や帰結も、その細部こそ理知的であるが、説明的な感じはうけず、どちらかというと感情の機微を見事に浮き上がらせるようである。
この2面性こそがブリッシュの小説を特別なものにしているのであろう。
そこで、『宇宙零年』に。
この彼の一番有名な著作である『宇宙都市』シリーズの初作は何を隠そう、設定資料集で、後の彼の小説に出てくる重要な2つのガジェット、スピンディジーと老化抑制薬の開発秘話を小説にしたものである。そして、かなり詳細にわたり、計算式や化合式などでその仕組みが解説される。しかし、そんな中でも物語の、特に後半の展開はややロマンチックすぎるほどであり、じつに詩的でエモーショナルだ。そのため、前半はややその政治的な対立構造であったり、説明的要素のせいでとっつきづらいとかんじるかもしれない。が、後半になるにつれそれらの伏線や構造が見えてきて、実に爽快なカタルシスをもたらしてくれる。素晴らしい。わずか1作のうちに自身のすべてのスタンスを詰め込んだ彼の手腕たるやである。
ディレイニーのマルチプレックスなどとは異なるが、彼もまた多層の物語を収斂させる名手のようだ。次を読むのが楽しみ。宇宙都市シリーズはすべてまとめて入手したので、他の著作も手に入れたい。
※科学技術が現実の世界で起こっている対立の解決策となるであろう書き方をされているのも特徴かもしれない。これは時代特有のファンタジーであるとばっさり切る人もいるのだろう。しかし、理系の研究のモチベーションとなっているのはこういう根本的なところにも少なからずあるのではないかと思うと、なるほどブリッシュの人間味溢れるキャラクターが見えてくるなと思う。
小説にリアルな数値や数式、理論を持ち込み、それとの整合性を
考えるのは難しい。しかし、そこを避けずに敢えて挑戦し、完成させるのが私たちの仕事の意義だと。
そして、また“~~でしか、~~だけ”という風に物事の1面だけを描きたくない。どちらかというならば、良い方に導く何かを考えたいし書きたいのだと。
なるほど、彼は自身のバックグラウンドである製薬会社勤めの経験をも取り入れて、またその実際的な計算式を含めて本作を完成させている。そして、ネガティブなイメージを描出しつつも、その中でポジティブな可能性を垣間見る人間たちを登場させる。
ブリッシュは、かなり信頼のおける批評家としても知られ、辣腕を振るったらしいし、著作や発言の多くも、小説に理性や合理性を求める人間であったようだ。しかし、彼の小説を読んでみるとハードSFの皮こそ被っているのだが、登場人物たちは皆個性豊かであるし、非常にエモーショナルな生き方をしている。そして、また物語の展開や帰結も、その細部こそ理知的であるが、説明的な感じはうけず、どちらかというと感情の機微を見事に浮き上がらせるようである。
この2面性こそがブリッシュの小説を特別なものにしているのであろう。
そこで、『宇宙零年』に。
この彼の一番有名な著作である『宇宙都市』シリーズの初作は何を隠そう、設定資料集で、後の彼の小説に出てくる重要な2つのガジェット、スピンディジーと老化抑制薬の開発秘話を小説にしたものである。そして、かなり詳細にわたり、計算式や化合式などでその仕組みが解説される。しかし、そんな中でも物語の、特に後半の展開はややロマンチックすぎるほどであり、じつに詩的でエモーショナルだ。そのため、前半はややその政治的な対立構造であったり、説明的要素のせいでとっつきづらいとかんじるかもしれない。が、後半になるにつれそれらの伏線や構造が見えてきて、実に爽快なカタルシスをもたらしてくれる。素晴らしい。わずか1作のうちに自身のすべてのスタンスを詰め込んだ彼の手腕たるやである。
ディレイニーのマルチプレックスなどとは異なるが、彼もまた多層の物語を収斂させる名手のようだ。次を読むのが楽しみ。宇宙都市シリーズはすべてまとめて入手したので、他の著作も手に入れたい。
※科学技術が現実の世界で起こっている対立の解決策となるであろう書き方をされているのも特徴かもしれない。これは時代特有のファンタジーであるとばっさり切る人もいるのだろう。しかし、理系の研究のモチベーションとなっているのはこういう根本的なところにも少なからずあるのではないかと思うと、なるほどブリッシュの人間味溢れるキャラクターが見えてくるなと思う。
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