『ランズ・エンド 闇の孤島』:8点

潮の満ち引きにより、消えたり現れたりする孤島を持つ小さな町。
その町で起こったティーンエイジャー殺害事件。
その犯人を追う正義感に燃える刑事とその弟。
そして、使命感が強すぎたが故に起きてしまう過ちと業を描く。

原作は未読のため、その比較はできないが、映画単体としてみればかなりいい出来だった。海外評では、キャラメイキングや原作再現について批評が辛かったが、そこは未読の人間には僥倖となったよう。タイトルやキャラの名前などがなぞらえているわけではないので、ギリシア神話における悲劇との比較も、そこまでとやかく突っ込むものでもあるまい。

特に良かったのが様式美が感じられる作品構成。ひとつ目の事件で真相を追う側だった刑事が、二つ目の事件では追われる側に。そしてまた、主犯格とその友人の絆や関係性も互いに共通し、あらゆるところで共鳴する要素がある。
一時の感情の高ぶりで殺人を犯した者への嫌悪感と彼を徹底的に追いつめようという正義感により、自らが最大の罪を背負うことになってしまう悲劇的な展開も興味深かった。

そして、また町にある特徴的なランドスケープ、潮の干満により姿を現したり消したりする島の存在の役割も良かった。

一時的には消えても、永遠に消し去ることはできない罪の存在をあらわすモチーフとして。
また、寄せては返す波のように永遠にぬぐうことのできない罪悪感と良心の呵責の象徴として。
そのほかにもあるだろう。

物語だけではなく、キャストもよかった。
正義感に燃える刑事から一転し、焦燥感と自己嫌悪にまみれながら疲弊していく刑事をポール・ベタニーが見事に演じていた。
加えて、相棒であり親族である弟役の人もいい味を出していた。血は水よりも濃い。そんな言葉が重くのしかかる難役であっただろう、そしてこの物語の影の主役でもある。『BLOOD』のタイトルを背負っていたのだ。
マーク・ストロングの、事件を追っているようで、実ははじめから真相をわかっていたのだというような人物像つくりも見事といわざるを得ない。
あの全てを見透かしたかのような視線と力強い佇まいは印象的だ。

演出面でも見所は多かったように思える。こと、音楽の挿入タイミングは心憎いほどにパーフェクト。きちんと、画面の中の感情やテンションを捉え、増長していた。

唯一残念に思えたのは、やはり上映時間の短さか。
あと30分伸ばして、人物同士の過去のつながりや、それぞれのキャラが強く出るエピソードを挿入することでより物語の中での立場の逆転という構造が強調されたであろう。

それでも、これに関しては観るものの想像を掻き立てるためにきったともいえるし、コンパクトにまとめたともいえるのでそう不満はない。

長々とまとめずに書いてしまったが、とにかく観て損はないよってことだ。この手の物語は日本人の琴線に触れる者だと思うしね。

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