POVの新境地『クロニクル』
2013年10月4日 映画アメリカでクロニクル現象なるものを巻き起こしたとかなんとか。日本では首都圏限定公開に終わりそうなのが残念でならない。バカッター現象なるものがある日本でこそ、この映画はヒットしそうなものだが・・・。しかも1000円。これを観ないわけにはなるまい。半年間もDVDを輸入しなかったかいがあったというものだ。
この物語の主役となるのは、異なる立場、性質の3人だ。
アンドリュー少年はいわゆるギークで、いじめられっこで暗い。しかし一際自己承認欲求が強い。また、時折感情を爆発させ、行動は衝動的だ。本作でもっとも視点映像が多く、いわば主人公。
スティーブは、言わずもがなの人気者。頭もよくスポーツも出来てかっこいい。みなの理想の存在だ。正義感も強く、時折行動となって現れる。
アンドリューの従兄のマットも、どうやら人気者。昔は馬鹿をやったが、最近は真面目になっていて、根は結構人格者。三人の間での立ち居地に悩み、バランスを取ろうとしている影の立役者。
このアンバランスなようでバランスが取れた三人は、偶然力が結びつけた三人。いまや彼らは三位一体。
これはまさに、エゴとスーパーエゴ、イドの関係のようではないか。勿論、アンドリューがイド、スティーブはスーパーエゴ、マットがエゴである。
超自我を失ったことによりバランスを欠いた彼らはイドとエゴだけになり、リミッターは常に解除されたままの不安定な状態に。
そして、起こるべくして起こってしまう強すぎる承認欲求の発露は、力の暴走となり現れる。その絶大な力を制することができるものはなく、同等の存在である従兄によって半ば強制的に制されることとなる。
これにより、イドは消え、自我だけが残る事になる。
また、本作はPOV作品であるが、そのカメラは主役たち以外の手のものにもなるときがある。これは単に機能的な理由によるものであろう。
彼ら3人の物語の進行は結局彼らの手でとられているときだけなのである。そういわばこの物語は、力によって結ばれた3人を新しい一つの存在として捉えた上での内面の葛藤劇を描いたものだったのだ。
ギーク少年の成長譚かと思いきや、誰の中にもある内面の葛藤劇を3人の登場人物に振り分けえがいてみせ
たものであったに過ぎない。
そう考えると、アンドリューの視点が一番多く占めているのもうなずける。思春期の不安定な時期は特に、スクールカーストにナーバスになったり、分けのわからない原始的衝動に駆られることが多いからだ。この映画に共感を覚えた多くの人は、無意識にそんな自分の青春時代と重ねて見ているのではないだろうか。だからこそ、こんなにもヒットしたのだろう。
まさにPOVの新境地である。従来のなるべく登場人物の近くで事件の臨場感を味わうといったものをはるかに超え、半ば強制的に自身との対峙を迫られるものは間違いなく本作をおいてなかった。
そんなある種、どんなPOV作品よりも一人称な映画だった本作は間違いなく今年のナンバースリーにランクインするだけの情熱と力が感じられた。
監督は28歳!!若い。私と一つしか変わらない。才能の違いを感じさせられる。昨今は監督も20代が増えてきているが、それでもこんなビッグバジェットの作品を成功に導く(ただいま世界興行収入は制作費の10倍、約120億円の大ヒット中)のは相当なる手腕。主役アンドリュー少年は今年ブレイク確定の若手俳優だし、その審美眼たるやである。是非、次回作もみなの度肝を抜いてほしい。
※勿論上記のような考え無しに、ジュブナイル的なSF映画としても見所満載な作品だ。監督には『童夢』の実写をお願いしたい次第である。
※こんなにわかい監督の作品に感心させられたのは、『明日、君がいない』ムラーリ・K・タルリ監督いらいである。彼は当時大学生22歳だったはずだ。
続編企画が進行中のようだが、一体どうなるか。
コメント