パスカル・ロジェのホラー
2013年11月14日 映画最近好きなホラー監督にパスカル・ロジェという人がいる。
彼を知ったのは『マザー』という作品だったわけだが、そこからしばらく存在を忘れていた。
その後、お決まりのシアターNでとんでもねえホラーやるぞといった情報が駆け巡り、その正体が『マーターズ』だった。
そこで久しぶりに彼のを名を思い出したものである。
そんな彼の新作『トールマン』を観た。
まあレンタル新作なんだけども。映画館にまで行くほどプロットにくすぐられなかったんだよね。
そして、まあ実際見たあともその気持ちは変わらずだった・・・。
けど、これは単に好みの問題だと思う。パスカル・ロジェの前述2作品もとりわけ好みではないが、その構造は革新的で演出手腕も際立っている。
『マーターズ』のヴィジュアルやストーリーがかなり残虐であったことで、そういう暴力描写でばかりフューチャーされてしまうのは勿体無いなあと。『マザー』のときは無名だったし、仕方ないかもしれないけど。
彼は、『マザー』『マーターズ』と一貫して“地下室”を描く。
それは、作品内で登場人物たちの内面をあらわし、そこを行き来することで内省する様を描き出すのだ。そして、また地下室の薄暗く、何か隠してあるんじゃないかという印象の通り、暗い欲望や罪の意識の象徴として描かれる。
今回は、地下室こそでないし、“神隠し”的な事件を御伽噺チックに描いたわけだけども、結局は地下室の役割を森が持つようになっただけで何も基本は変わっていない。彼はぶれない監督なのだ。
加えて、監督は3作ともに映画を2部構成で作っている。前半は、物語の表象を描く。そこでは恐ろしくも人々をひきつける何か事件が起きる。その顛末が描かれ、なんと本来あるべきどんでん返しは映画の中盤で全て明かされてしまうのだ。ここに監督の心意気を感じる。どんでん返しやバッドエンドでやけにインパクトだけを残そうとする昨今のホラーへのアンチテーゼ構造だ。本質はエンディングでのみ明かされるのではない、過程が大事だということだ。
上記の点があるからこそ、彼のホラーは従来のB級テイストややや雑なプロットを持ったホラーよりも重厚かつ味わい深いものとなっているのだろう。そして、また賛否両論の物語が多い。物語の中にはそれに納得するものとしないもの両方が存在したまま終わるのだ。その一方は観客である場合もあるだろう。
本作でもまた、親切とおせっかい、親と子の視点の違い。都会と田舎。様々な二項対立を提示し、われわれの価値観をゆさぶる。
たとえ作品を好きにならずとも、そのつくりの丁寧さやアルジェントのようなジャッロ系フィルムメーカーの影響を受けた人物を舐めるかのようなカメラワークに魅力を感じられる作品となっている。ホラー好きは見ておいて損はないと思う。
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