期待しすぎたせいもあるのかもしれないが、それでもこの映画はあと一歩のところで失敗しているような気がしてならない。
世間的には成功作としてあげられ、支持する評論家やファンもたくさんいるホラー作品『シャイニング』。原作者のキングは、この作品を好きではないらしい。そして、その理由は完成度や怖さの面ではなく、ジャックがはじめっから狂気の淵にいる顔だから、という理由とのことだ。

この作品を見たときに、まっさきに感じたのはそこである。テンションの差が前半と後半で無さ過ぎるのである。
そして、無いのならそれはそれでよく、実は疑わしき人物だった彼は関係なくて、実は・・・・ってな脚本のヒネリがあるべきだと思うのだが、それには至らず、非常にわかりきった形のストーリーが恐ろしく荘厳に仰々しく語られるだけ。

脚本家の意図を解せず、映画化されてしまったように感じてならない。
しかし、監督に力がないかといえばまったくそんなことはない。
むしろ、演出面や画の構成力はズバ抜けた感性の持ち主であるように感じる。
また、『ブラックスワン』の音楽を手掛けたスタッフたちによる神経質に鳴り響く音楽も一際緊張感を演出していたのも間違いない。

キャスト陣も申し分ないパフォーマンスを魅せている。とりわけ、主人公を演じたミア・ワシコウスカの常人ならぬ雰囲気の再現率はその類まれなるエメラルドの双眸もあいまって実に神秘的で見事。しかし、考えてみるとこれが反ってよくなかったのかもしれない。
あまりにゴシックな顔立ちで、その所作もあいまって、はじめから内ににじむ狂気がこぼれ出すぎている。彼女は単に演出に従っただけなのかもしれないが、あまりにもそれが強すぎる。また、彼女の特異さを写すパートが多すぎたのか。これにより、本来なら、マシュー・グードの狂気に同調していくイノセンスが描かれるはずが、はじめから狂気が狂気に仲間意識を見いだし惹かれていくだけのように見えてしまう。これらのせいで前半と後半の色にあまり違いがない作品となってしまっている。じわじわと観客を蝕む狂気や恐怖が隠れていないのだ。

本来驚くべき、戦慄すべき結末に全く驚きがないのはこの点があるからだろう。

これらを差し引いても、後半の展開は、どこか漫画のような展開で、漫画やサブカルに触れている人は既視感を覚えるかと思う。この部分もかなりラストの展開を予見できてしまった要因となっている。

このように完璧に近い作品は、こんなわずかな瑕瑾で崩壊してしまう。非常にもったいない作品だ。

※余談だが、本作のこの巧みな脚本を作ったのは『プリズン・ブレイク』シリーズのイケメン、ウェントワース・ミラー。
イケメンな上に物書きの才能まであるとか、ズルいにも程がある。是非次回作では監督もやって、完璧なる玉となった作品をみてみたい次第である。

コメント

マイコロス
2013年12月9日22:06

ゴールデンボーイのように片方の狂気をもう片方の狂気が凌駕する展開期待してたのでなんか普通に物語が進んで残念でした。

tyler
2013年12月10日14:10

そうなんですよね、ヒネリがありそうな物語のくせにすっごい一本道。ゴールデン・ボーイは、設定的にも現実味がありましたし、こまかな描写も光っていたように思えますね。そして、やはり本作にはジワジワと忍び寄る感じ、正気が狂気に染まり、さらにあの叔父の考えていた閾値を越えるというような描写が欠けておりますな

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索