ソダーバーグ監督が兼ねてより撮りたかったらしいスパイ映画。

昨今のスパイ映画とはちょっと赴き異なる作品で、なかなかに興味深い。それは大きくふたつの要素によるものだ。

一つ目は、説明を排した物語構成。
冒頭、ダイナーで突如始まる戦闘シーンに観客は面食らう。当然あるべき、登場人物たちの情報が何もなく、いきなり殺気むき出しで戦いを始めるのだ。そして、多くの何故が発生し、それらを抱えた我々は、それを解決すべくマロリーの語る物語の世界に否が応でも引き込まれていく。
さらに、我々は登場人物の背景や関係性の説明を極端に排した構成のせいで、マロリーと同じように、誰がどのような思惑を持っているか、どこで繋がっているかを考えなくてはならない。点と点を結び線にする作業を強いられ、半ば強制的に物語に入り込むことになる。
ハリウッド資本作品は説明的であるがゆえに、ストーリーに中だるみを感じる。この方法はそれをうまく解消する方法だが、反面度合いを誤れば単にフワフワしたあいまいな作品になりかねない。しかし、そこは見事に、人物の生活の一部から事件や事象の全体像を見る、というソダーバーグ節で見事にまとめている。

そして、二つ目は、アクション演出。
本作には、冒頭のアクションも含めて、特に大立ち回りが存在しない。すさまじく地味な戦いのみである。
しかし、コンタクトが多く、飛び道具や一撃必殺もないその地味で泥くさい戦いは妙な説得力がある。それは明らかに、007のようにスーツのボタンすら外さず多数の敵や組織を壊滅に追い込む華麗なアクションにない魅力がある。主演のジーナが、格闘選手であるからこそ実現できたであろうそのアクションの数々は、操演によって表現される格闘とはまるで異なるのだ。

この二つの要素の見事な絡み合いがこのスパイ映画を007作品などとは違った体験をさせて
くれる。ケレン味たっぷりなスパイなんか、スパイじゃねーよという人は是非とも見ていただきたい1作。

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